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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

書評「ヒア、カムズ、ザ、サン」(有川浩)

 たった7行のあらすじから、脚本家は脚本を、作家は小説を作り上げた。さらに作家は脚本家の作品を参考にしてもうひとつの小説を。
 たった7行のあらすじは116ページと129ページの二つの異なった小説に成長した。有川浩という作家はすごいと思う。この数年でもおびただしい小説を世に出し、さらにこんな遊び心まで持っているなんて。
 巻末に脚本家が有川に向けたラブレターを書いている。脚本家の評価は全く順当で作者の多才さに惜しみ無い評価を送っている。

ヒヤ、カムズ、ザ、サン

さて、前置きはそれぐらいにして、作品についてだが、ここでは、二つある物語のうち、後の方、ヒア、カムズ、ザ、サン、パラレルについて書く。
モノに触るとそのモノを介して関係する人達の思いが読み取れるという特殊な能力を持った青年がいた。彼の祖母も同じ能力を持っており、かれは祖母からその能力を決して自分の利益になるような使い方をしてはならない、そうすることにより、自分が不幸になると諭されていたのだ。それが主人公である真也なのだ。
ある日、出版社の同僚であり許婚者であるカオルの父親がアメリカから帰ってくることになり、カオルと共に空港まで迎えに行くことになった。カオルの父親は20年前にアメリカへ渡り、今は有名な脚本家として売れているという。しかし、家族を捨て、離婚し一人でアメリカへ渡ってしまった父親のことをカオルは嫌っていた。カオルに父親が渡そうとした手紙をカオルは投げ捨ててしまう。それを拾った真也はその手紙に触れた瞬間に強烈なショックを受けたのだ。
父親はとんでもない嘘つきで見栄っ張りであった。家族に対してはいつも見栄をはりホラを吹いていた。しかし、父親が一時帰国したのには訳があったのだ。それはここでは書けないが、彼の手紙に触れた真也は彼のその思いを探ろうと思念をこらす。それは自分のためではなく、許婚者カオルのためであった。そして、真也はカオルの父親の一時帰国の訳を探りだしたのだ。
真也はカオルとその父親のこじれた関係を修復しようとそれぞれに働きかける。カオルはそんな真也から受ける軋轢に嫌気がさし、次第に距離を置くようになってしまう。二人の職場の上司や後輩は二人の関係がまずくなっている事を察してカオルに助言をする。特に上司からの助言は大人になりきれない大人、親になりきれない親への対応であった。それはなにげない日常会話の一端ではあるがとても秀逸なものであり、私は思わずその話しに感動してしまった。
父親がアメリカへ戻る前日の夜、父親とカオルそして母親は一緒に食事をすることになった。その夜遅く、カオルから真也にメールが来た”愛してる”と。
ほんの7行のあらすじ、それをここまで膨らませ、感動を呼ぶ物語に成長させる。有川浩さんの才能は素晴らしい。ぜひこの小説を味わっていただきたい。

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