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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

書評「キップをなくして」(池澤夏樹)

電車を降りて改札の前にたち、ポケットを探るとキップが無い。ごくたまにあることであるが、鞄の中や、財布の中などあちこち探して何とか出てくるのがまあ普通であろう。しかし、その予定調和が予定調和にならなかった時、若干の焦りを感じる。この小説のように、もう二度と駅から出られないのではないかというちょっとワクワクする不安である。まあ、人生長くやっていればそんな楽しみもなくなり、じゃまくさいけど駅員に話すか。で終わってしまうのだが。

キップをなくして

この小説はそんな不安にはじまり、キップを無くした子供たちが駅の中で一緒に暮しながら「駅の子」として山手線の各駅で乗り降りする子供たちの世話をするのである。
ファンタジーのシチュエイションは基本的には”何でもあり”なので好き放題に条件設定ができる。しかし、そんな小説でも読者はそこから得られる感動があればすべて許してしまうのである。
「駅の子」たちの中に死んだ子が一人いる。この子が”あちらの世界”へ旅立つまでの心の迷いの期間、それを共に過ごす駅の子たちが支えて行くのである。
人の心(魂)はたくさんの小さな心(コロッコ)の集まりであり、そのコロッコたちが議論しながら、どうするかを決めて行く。鉄道事故で亡くなったその子のコロッコ達はいきなりの出来事だったため、議論する時間がなかった。だから、向こうの世界へ旅立つには時間が必要であったのだ。人は死ぬと徐徐にその人のコロッコたちはその集まりから離れて行く。そして最後にはなにも残らない。しかし、個々のコロッコたちは、また別の生命として生まれ変わる。小さな生き物には少しのコロッコ、人間の心には、はたくさんのコロッコが集まる。コロッコは永遠に生き、次々とその宿る生命を代えて行く。作者である池澤夏樹さんの”魂”というものに対する考え方である。これはある意味では仏教の云う、輪廻転生に繋がる考え方であると思う。
春休みの終わりに始まったこの物語は夏休み前の駅の子達の北海道旅行で終わる。主人公イタル、リーダー役のフタバコそして魅力的な駅の子たちの振る舞いが可愛らしく、成長していく姿がとても良い。
先にも書いたが、理不尽な設定のファンタジーは決して破綻しない。元々が理不尽なのだから。しかし、そんなことはどうでもよくて、とにかくその内容が感動を与えるものであれば良いのである。最近は読書に”スレ”てきて、現実味のある小説をその内容が破綻するのではないかとハラハラしながら読むことが多いのだが、それに比べればファンタジーははるかに気楽である。

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コメントコメント


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煩悩大全集の四方山さん
>ポケットを探るとキップが無い。
 切符が無い以前に目が覚めたら「ココは何処?ワタシはだぁぁれ?」みたいな事って有りませんか?
 真冬の相模湖駅に到着した最終電車、当然上り線の運転は終了し懐には3千円程しか無くこのまま駅で寝ると確実に凍死有るのみのサバイバル状態。
 で?何を始めたかワタシ??続きは飲み会でね。(ゴチ♪)
 

うんちく | URL | 2013年09月16日(Mon)22:45 [EDIT]


うんちくさん
>「ココは何処?ワタシはだぁぁれ?」みたいな事って有りませんか?
はは。ごくたまにあります。目覚めたら姫路、リターンの電車は既に無い。
こんな時には息子に電話・・・を今までしていたのですが、大阪に行ってしまったのでもう頼めない。
 以前冬の寒い日、大阪から最終西明石行きの電車に乗ったのですが、西明石駅周辺のホテルはすべて満室(というかヨッパのおっさんだから敬遠されたのかも)駅からも閉め出され、しかたなく・・・・
また、この悲しい話は飲みながら。

四方山果無 | URL | 2013年09月18日(Wed)23:29 [EDIT]