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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

書評 ハッピー・リタイアメント「浅田次郎」2009年

 JAMS(全国中小企業振興会)に天下りした、財務省のノンキャリア官僚、樋口と退役自衛隊の大友、この二人が既に時効を過ぎた債務の取り立てに回り、手にした金が3億5千万余り、秘書件雑用係りの年齢不詳の女性職員、立花葵この3人が山分けをし、海外での優雅な老後を過ごすべくハワイに渡る。
 はたしてこれは犯罪なのか?

ハッピー・リタイアメント

 JAMSは元、財務官僚の矢島が我が物顔に牛耳っている組織であり、そこへ天下った物は何もしなくて良い。好きなように60歳の定年の日まで過ごし、高給を貰い、高額の退職金までももらえる夢のような職場なのだ。“天下り”とはどんな生態なのかということもこの小説の中で詳しく書かれている。くだんの悪人矢島はナポレオンの時代にまで遡って、その正当性を主張するのだが、現実、今の現役官僚の中にも同じように思っている者はたくさんいるのではないかと、比較的近い場所に居る自分は思うのである。
 JAMSはかの連合軍総司令官ダグラス・マッカーサーの肝いりで敗戦後、財閥解体の後の産業振興のために立ち上げられた組織である。新たに起業する者に対して債務の保証をするという公的機関であった。組織の発足当時、山村ヒナという給仕の女性がいた。彼女はマッカーサーが来所した時にコーヒーをサービスし、そのJAMSでの生涯の雇用を約束される。英語が堪能なこの老女がまた魅力的。一番最後には大どんでん返しが・・・・。
 さて、天下りの二人がしなくても良い仕事で訪問した、借金踏み倒しの、かつてJAMSより融資を受けた人達のドラマもまた面白い。結果的には、時効を過ぎた借金は返さなくて良いのだが、いろんな変遷があり、現在は事業に成功している彼らは、その返さなくても良い借金を利息を付けてまで返すのだ。この踏み倒した借金は延々とその者の心の中の重荷となり、枷となっていた。其れを弁済することが出来てやっと心が開放され、法律上は返さなくても良い借金を返した者達はみな長い間の重荷から開放されたことに涙をこぼすのであった。ここんところは、浅田次郎さんの十八番である浪花節が出てくる。作家の金尾為太郎。焼き肉チェーン店経営のニック・オノ。軽井沢のセレブ・マダム上條歌子。無職の安井清の話は涙なしには読めなかった。“禍福はあざなえる縄のごとし・・・”世の中そうそう不公平にでけとらんはずや・・・ここはいい場面である。ちなみにこれらの借金踏み倒しメンバーの中には作者自身と思わしき人物も出てくる。
 読み始めるとあっというまにページが進んでしまう小説だ。終わりに近い場面の処理は、続編が書けるのではないかという期待が持てる終わり方なのである。もっとも、“天下り”ネタでこれ以上続けるのは不毛であるので、壮年パワー爆発、バラ色の第二の人生・・・・なんて方向がいいんじゃないかなと。
 とても読み応えがあり、泣けるシーンや憤るシーンも多い小説です。“お得感”一杯の作品ですので、ぜひともお読みになられることをオススメします。

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