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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第5話 釣書

 暑さもいくぶん和らぎ、松風寮の庭の木立で鳴いているセミの声も「オーシ・ツクツク」に替わった。部屋にいると暑いので、最近休みの日はいつも食堂に詰めてテレビを見ている。食堂にはクーラーもあるし、電気代は寮生で折半だから自分の懐は大きく痛まない。一人でクーラーを入れ、テレビを見ていて寮生の皆さんに負担をかけ、申し訳ない事だと心が痛むだけである・・・なんてしおらしい気持ちは当然山口には”無い”。

 つまらない番組をかけっぱなしにして一人でウダウダしているところに寮母の畠田さんが入って来た。なんだかモジモジしているので、どないしたん?と聞いて見ると、ちょっと頬を赤らめながら後ろのほうから白い封筒を出して来て山口に渡した。
 山口は驚いて、「畠田さん、ぼ、僕はまだ若いし、未亡人の畠田さんがお一人で寂しいのはよくわかりますが、ち、ちょっと僕では役不足かも・・・」
畠田さんは「はぁ?何か勘違いされとりませんか。ラブレターと違いますえ。そりゃまあ私も一人で寂しい言うたら寂しいけんど。」「あ、いや失礼しました。いきなり顔を赤められて手紙を渡されたら誰でもそう思いますやん。」「まあ!このおばさんが渡してもそう思てもらえるなんて嬉しいわぁ!」あらぬ方向へ話が進展しそうなので山口はあわてて、「で、おばちゃん何やのこれ?」と聞いて見ると、「・・・この人どないかな?と思って・・・」山口が封筒の中から出して来たものは、写真入りの「釣書」であった。
 年齢21歳、3人姉妹の長女で、女子短大卒。今は市内の司法書士事務所勤務。趣味はキャンプ、スキー、ダイビング。英検2級、ソロバン1級、何の問題も無い。写真を見るとなかなかかわいい。ワンピースの彼女は楚々として爽やかで、胸も結構大きい。そう山口の大好きな小泉今日子に似ている。
 「なかなかいいお嬢さんですね。ぼ、僕のこと気に入ってくれるかな?」と、二人連れだって歩いている姿を空想しながら山口が半分その気になりかけた時、「山口さん、勘違いしたらあきまへんえ、3人姉妹の長女いうたら養子さんを探してはるんどす。」と、畠田さんに言われた。「山口さんは長男やさかい、最初から問題外どす。」雲の上からいきなり深海に突き落とされたようなショックを受けている山口には、畠田さんの京都弁が随分腹立たしく感じられた。山口はぞんざいに、「畠田さん僕をからかっているんですか!」少々むかつきながら寮母さんに言うと、「うちの寮生で長男でなくて、だれぞこの娘に似合いのええ人おまへんか?」と聞かれる。「おばちゃん、長男でないやつはいっぱいいるけど”ええ人”はおりまへんな。この寮でまともな人間は僕しかいないような気がしますわ。」「山口はん、何冗談いうてはりますの、皆さん似たり寄ったりやおまへんか。」おっとりした京都弁で、痛い所を突かれるので、ますます腹が立つ。「わかりました。おばちゃんは僕以外なら誰がいいと思いますか?」「そーどすな?宮木さんか林元さんがよろしおすな。」そう思っているなら何も僕に見せずに直接宮木さんか林元さんに話せばいいのに。と思いつつ。「そうですな。宮木さんは吝嗇で疑り深くて、すぐ人をビールのただ飲み犯にするところ以外はええひとですね。」「林元さんは、酒飲みで、酔うと見境なく相手をどつくし、駐車場の車の屋根の上を跳び回り凹ます以外は確かにええひとだ。」山口が精一杯イヤミを言うと、畠田さんは気を悪くしてそそくさと釣書を片付けて部屋に戻って行った。
 せっかく寮母さんが持ってきてくれた希少な見合い話なのに、その後、寮の中では見合い話を聞くことは二度と無かった。

(この物語はフィクションであり、登場する、人名、団体名は全て架空のものです。しかし、架空といっても、何だかこんな情景あったなー・・・とか、こいつ知り合いに似ているな・・・・なんて思うこともあるやも知れません。が、それは単なる妄想です。そんなことあるはずがありません。決してありませんっ!)

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