FC2ブログ
 

2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第4話 人生捨てたろ会

 8月の初め、真っ青な空とくっきりとした白い雲、緑の多い滋賀県大津市郊外の山口の会社は蝉時雨に包まれている。まさに夏真っ盛りだ。(ま、言い換えればクソ暑くるしく、やかましいセミどもなのだが)山口の会社には夏休みが3日ある。特定の日が休みというわけではないので、土日を繋げれば5連休が取れるのだ。寮生の多くはお盆の期間に休みを取って帰省するのだが、優雅?な独身貴族?(独身棄民)のこと、海外旅行や国内旅行に出掛ける者も多い。

 山口は日曜日の午後、久しぶりに同期の藤木と冷房の入った食堂でくつろいでいた。「そういえば九腕さんは西さんや宮木さんと台湾へ行くといっていたなー。」と藤木「どうせ目的はひとつやろ。」と山口「最近何や知らんけど”人生捨てたろ会”というのん立ち上げたらしいで、食堂に新入会員募集の張り紙が張ってあったで。」「あーそれなー、ロートル寮生が昔30歳過ぎたら”三十路会”(みそじかい)言うのを創ってそれが40歳過ぎたので”40路会”(よそじかい)。とうとうこの間九椀さんが50歳になったんで、本来なら”50路会”(いそじかい)なんやけど、もう40や50という年齢を付けるのも恥ずかしくなって、やけっぱちで付けた名前らしいで。」「なんちゅう会やねん。そんな齢になるまで独身寮に居りとうとう無いな。」「あ、藤木知らんな、ここの寮はな、出ないと絶対に結婚できひんというのが会社中のうわさやねんで。そやから給料が上がって自分でワンルーム借りられるようになったら早々に出ていかんと嫁さんもらわれへんで。」「え、そんな噂があんのん?ほんでも4階のあいつのように女の子連れ込んで今だに同棲しとるで。」「まーそのうちに別れるやろ。こないだ洗面所で、女の子が女子便所を造るよう会社に要求せえ言うてあいつに詰め寄ってたで。」「ふーん」おっと、話がそれてしまった。「で、なんで”人生捨てたろ会”が会員募集してるんや?50歳(いそじ)越えないと入れないんじゃないか?」「いや、今までと違って年齢表現を名称に入れて無いから、年齢にこだわりなく、広く一般の寮生にも勧誘しているらしい。」「で、なにする会やねん?」「会のスローガンは会の名前とは裏腹に、”人生を有利に!”ということらしい。要するに今まで不利な人生を歩んで来たから、せめて余生は、楽しく遊んで暮らしたい・・・ってとこかな?」「なに言うてんねん、今までの自堕落な生活が祟って今の状態になったんとちゃうんか?」「まあ言うてしまえばそのとおりやなー。」「で、入会したらなんかええことあるの?」「なんでも、ただで台湾旅行ができるらしい。40も過ぎて独り者だと金が余ってしょうがない。だから、若い衆に旅行中の世話をさせて、その代わりに旅行代は持ってやる、ってのがシステムらしい。」「えー九椀さんに旅行中は、アゴで使われるのかー。それも苛酷な試練やなー。」「ほんまや、そんな旅行行っても楽しいないで。」
 と、かってな噂を二人でしていると、たまたま、宮木が食堂に入って来た。宮木は早速冷蔵庫を開け、缶ビールとワンカップの数を数えている。宮木は寮の会計をやっており、また、その見かけによらない几帳面さ、から寮生のために缶ビールとワンカップの無人販売をやっているのだ。「あ、またビールの数が合わへん。おまえらチェックせずに飲んだやろ。」まったく根拠のない濡れ衣だ。「宮木先輩、僕らそんなことしませんよ。」と抗議すると、そうか、とあっさり返しながら、寮で一番大酒のみの近藤の欄に、ひとつチェックを入れていた。
 「宮木さんも”人生捨てたろ会”にはいっているんですか?」藤木が聞くと、「俺は入って無いぞ。一月の給料を一晩で飲みつぶすようなやつらと付き合えるか!」と怒り出した。そりゃそうだわな。缶ビール1本30円の手数料で寮生のためにビールの販売をしてくれているんだ。はっきり言って吝嗇。いや失礼、節約家なのである。九椀と宮木を足して2で割るとちょうどよい経済観念を持った人になるのになー」と山口は思うのであった。

(この物語はフィクションであり、登場する、人名、団体名は全て架空のものです。しかし、架空といっても、何だかこんな情景あったなー・・・とか、こいつ知り合いに似ているな・・・・なんて思うこともあるやも知れません。が、それは単なる妄想です。そんなことあるはずがありません。決してありませんっ!)

スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する