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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第3話 なんで風呂場が閉まっているんや

 夏が暑いのは一般的な話だ。「暑い、暑い!」山口が職場でも寮でも口癖のように言っていると年配の坂木が、「うるさい!暑い暑い言うな!聞いとったらよけいに暑なる!」と文句を言う。暑くてイライラしている山口は、「暑いから暑い言うてんねん。なんか間違ごうたこと言うてまっか?」と、だいぶ流暢になってきた関西弁で言い返した。

山口の出身地である兵庫県の西の方は、関西とはいえ言葉は関西弁ではない。関西弁よりキタナイ言葉だと言われている”播州弁”なのだ。ちなみにさきほどの言葉を播州弁で言うと、「暑いから暑いゆうとんや、わいが間違ごうたこと言うとんかい、われ!」と、このように大変お上品な言葉になるのである。こんなに美しい?播州弁がしみついている山口は大津に来たときからいかに美しい?関西弁をしゃべるかということにかなりの努力をしていたのである。
 熱帯夜続きの毎晩、瀬田川べりの掃き出しの窓を国鉄の貨物列車が鉄橋を渡る轟音に悩まされつつも開けずにいられないこの辛さ。「うー、うるさい・・・」と一人で呻きつつ狭い割りには物が無いので広い四畳半をのたうちまわっていると、どこからともなくかんだかいうめき声が聞こえてくる。はは、同じように苦しんでいるやつが他にもいるわ。この熱帯夜ならしゃあないわな・・・と思いつつ、多少は同情する山口であった。
 さて、この暑い夏の真っ盛り、会社で仕事をしていても暑いのに、現場へ行かされた日にゃもう汗みどろ状態になる。そら考えてもみなはれ。土木工事の現場はどこもかしこも炎天下でんがな。学校の校舎にしても、道路工事にしても、河川改修工事なんか、だだっ広い河川敷の中、お日ぃさんをよける木陰すらおまへんにゃで。(あれ、こらいかん、いつの間にか関西弁になっとるやん。)そんななかでまる一日立ちっぱなしだったらそれは汗だくになる。帰ったら早々にひとっ風呂あびて、きりりと冷えたビールを一息で流し込む。あーこの一瞬が人生最高の喜びだ!まさにこの一杯のビールのために働いているんだ!なんて本末転倒なことを思い出すともういけない。現場を早々に切り上げて、5時ちょうどになるように会社へ帰り、上司に顔をそむけつつタイムカードを押して寮へ帰るのだった。
 ということで、今日も早々に寮へに帰った山口だったが、西日に当たって蒸し風呂状態の部屋もものともせず、着替えのパンツとTシャツを引っつかみ、早々に風呂場へ駆け込むはずだったのだが・・・
 松風寮の風呂は共同である。総勢10人が入れるタイル張りの風呂桶と、その二倍くらいの洗い場がある。更衣室には銭湯のような四角いボックスがあり、二十名分の衣服が入る5列4段の区画が切ってある。
 夕方5時を過ぎると入れる。寮生の多くはこのくそ暑い中、残業をしているのか定時早々に帰ってくる者は少ない。山口がこの日は一番風呂であったはずなのだが、なぜだか更衣室のドアが開かない。おかしいな?男ばっかりの寮の風呂場、ドアにカギなんか掛けるはずは無いのに。そう思いつつカギを開けてもらおうと寮母の畑田さんの部屋をノックするが、生憎不在のようだ。クソ暑いのに・・・とイライラしつつ食堂で寮母さんが帰ってくるのをまっていると、「カチャリ」更衣室のドアのカギが開いたような音がした。しばらくすると小柄な人影が食堂の開け放たれたドアの前の廊下を横切った。えぇっ!山口は自分の目を疑った。今横切った人影は胸が出っ張っていた。このむさ苦しいおっさんばっかりの独身寮になんで女がおるねん!そ、それも共同の風呂場から出てくるってことは、まさか中でエアロビクスをしていたわけではないだろう。風呂にはいっていたのだ。しばらくすると、同期の外町が鼻歌を歌いながら風呂場から出てくると、山口がいるのも気づかずに自分の部屋へ上がっていくのであった。「あ、あの野郎、この神聖なる独身寮に女を連れ込んで同棲かい。たいした度胸じゃねーか!」日頃むさくるしく、汚いゴミだめのような寮・・・と言っている口がそんなことを言うか?とおもうような事を言っている自分に気づいていなかった。そしてさらに、「そ、そうか。昨夜のうめき声は暑さに苦しんでいるんじゃなくって快感に溺れている声だったのか・・・」苦しんでいる声と喜んでいる声の違いもわからない鈍い山口であった。
 その後、同期の藤木からも、朝、共同の洗面所で歯を磨いている女の子を見たとか、早引きした西が4時半頃食堂で飯を食っているのを見たとか、色々な情報が飛び交い、また、連夜聞かされる”うめき声”に眠られず悶々としている寮生が多いことは、翌朝、朝食で顔を合わせる寮生の”目の下のクマ”が語っていたのだった。ああ、ここはアパートや無いんやで。
 
(この物語はフィクションであり、登場する、人名、団体名は全て架空のものです。しかし、架空といっても、何だかこんな情景あったなー・・・とか、こいつ知り合いに似ているな・・・・なんて思うこともあるやも知れません。が、それは単なる妄想です。そんなことあるはずがありません。決してありませんっ!)

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