FC2ブログ
 

2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜  第1話 風流舟だまり

 就職すると月日の流れは速く感じる。いろんな現場に接する毎に新しい体験が出来る。用地境界の確認の立ち会い、測量、下請け業者の検尺、仮設足場の組立、玉掛けの手伝い(クレーンで鉄筋などをつり上げる時のワイヤーロープ掛け)、コンクリート打設時のバイブレーターなど・・・・。もっとも楽しい体験ばかりでないことも確かだし、二度としたくない体験も中にはある。たとえば、林道工事の丁張りの手伝い、木杭を山のように背負子にくくりつけ、道無き道を延々と登るのである。また、山中での測量助手。ポールを持って立っていると、すぐ横にマムシが・・・!驚いて飛び退くと、下の方から先輩が「バッキャロー!!動くな!」「(そんなこと言ったって、マムシがいるんだもん。)

しかし新しい経験の多くは意欲を持って仕事に勤しんでいる山口にとっては心躍るものであった。そんな風に多くの新しい経験を楽しみながら仕事をしていると、日々はあっという間に過ぎてゆくのであった。
最近は雨が多いので現場へ行く機会がぐっと少なくなってしまった。それもそのはず今は、梅雨まっさかりである。毎日しとしとと降る雨に気持ちも沈みがちだ。寮に帰ると、相変わらず食堂では先輩諸氏がどんちゃん騒ぎをしている。春先まであった上でスルメを焼いていた大型の灯油ストーブは片づけられてしまったため、わざわざ七輪をテラスに出し、炭火を起こしてなにかを焼いている。迂闊に近寄ると拉致され焼酎責めに合うので、テラスとは反対側の玄関の方から寮に入り、物陰に身をひそめつつ、忍者のように階段を上がっていくのだ。
ふぅ。今日は無事部屋にたどり着いたぞ。しかし晩飯の時には捕まるな。半ばあきらめながら、とりあえず着替えをする。窓の外ではまだしとしとと雨が降っている。そして、その雨の中、ゴーッ、ゴーッと音が聞こえる。小雨にけぶる瀬田川、となりの旅館が所有する屋形船の“舟だまり”では舟が波に揺られて舟どうしが擦れているのだろうか?うーん、なかなか風流だな、水墨画になりそうな光景だよね。俳句でもひとつ浮かびそうな情景だ。・・・とかひとりごちながらくつろいでいたのであった。
暫くくつろいだ後、意を決して夕食を食べに食堂に降りると、テラスで七輪をかこんでいた面々が一斉にこちらを振り返った。メンバーは近藤、西、宮木、九腕、坂口、隣の社宅の吉山さんや万谷さんも来ている。「七人の侍」ならぬ「七輪の酔っぱらい」であった。
九腕はいつものように「コラァ!はよ来んかいボケ!」と乱暴である。渋々と七輪のそばへ行くと、醤油の焦げるなにやらおいしそうな臭いが山口の鼻腔をくすぐる。湯飲みになみなみとつがれた薩摩白波(普通は焼酎6、お湯4で割って飲むのだが、松風寮では焼酎8、お湯2が標準である)となにやら得体の知れない肉片が皿に載せられ山口の前に突き出された。
「どんどん行け!なんぼでも居るぞ。」という。「・・・居る?」、“ある”じゃないの?九腕さんかなり酔っているな、言葉もおぼつかないじゃないか?と少々小馬鹿にしながら、一口その肉片をかじってみる。「う、うまい!」まるで鶏のささみのような淡泊で上品な味なのだ。「フーン美味しいですね、ささみですか?」「ま、そんなとこだ。食え食え。」最初はうっとうしく思っていた山口も焼酎が回るに従い、しっかりと「七輪の酔っぱらい」になっていったのであった。
暫くすると、雨も止み、山口は七輪の熱気なのか、焼酎の影響なのかで少々蒸し暑くなったため、テラスへ出た。テラスの九腕の横には出刃包丁とまな板、そして、蓋付きバケツが置いてあった。先ほどから九腕は七輪の上の肉が無くなると、バケツの蓋を開け、何かを取り出しては、出刃包丁で料理し、七輪の上に肉片を載せているのであった。
 九腕さん、そのバケツの中には何がはいっているんですかねー?といいながら、山口が蓋を取ると、いきなりバケツのなかから黒い塊が飛び出してどこかへ跳ねて行った。
「あ、アホかお前は!酒の“あて”を逃がしたらあかんやないか。」と九腕は怒鳴る。
「ゲッ、もしかしていままで食っていたのは・・・」「そ、カ・エ・ル」九腕は楽しげに答える。「裏の舟だまりになんぼでもおるんや。遠慮せんとどんどん食え。」
そ、そうだったのか。あのゴーッ、ゴーッという音は食用蛙の声だったのか。山口は頭に描いていた“雨にけむる、屋形船”・・・という水墨画の風景がむかつく胃からこみ上げるものと共に、頭の中でガラガラと音を立てて崩れていったのであった。

(この物語はフィクションであり、登場する、人名、団体名は全て架空のものです。しかし、架空といっても、何だかこんな情景あったなー・・・とか、こいつ知り合いに似ているな・・・・なんて思うこともあるやも知れません。が、それは単なる妄想です。そんなことあるはずがありません。決してありませんっ!)

スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

何処の国の人だかは兎も角、「空を飛ぶ物は飛行機以外、四足の物は机以外何でも食う」とか?
 案外人間と言う生き物は食に対して貪欲みたくですよ。

>食用蛙の声だったのか
 ガキの頃自分で捉まえてバラして焼いて普通に食してましたけどワタシ。
アトはザリガニとか蜂の子とか?末成りのスイカに薩摩芋とか?(盗んでませんからねっ)
 それとねぇ・・香港で焼き蛇とかベルギーでネズミのビール煮とかイタリアで鳩料理とか・・・ゲゲゲ。

うんちく | URL | 2012年07月07日(Sat)22:49 [EDIT]


うんちくさん
 私だめなんですよ、あんまり変わった物は。でも、食べてみて以外と旨ければ病みつきになるかも。一番最初が問題なのですよね。最初さえクリヤすれば。ま、でも平和な生活を送りたいものです。

四方山果無 | URL | 2012年07月10日(Tue)06:44 [EDIT]