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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

連載小説「松風寮の四季」第一章春はあけぼの 第3話 ソフトクリーム

 昨夜、無理やり九腕に飲まされた酒のおかげで爆睡していた山口は、明け方夢を見た。それは年配の寮生が食堂に集まり丼鉢で酒を回し呑みしていた。それはまるで、鬼ヶ島で赤鬼、青鬼が酒を酌み交わしているのを、桃太郎が岩陰からそっと除いた様な場面であった。隅の方では新規採用生が小さくなり、お鉢(ドンブリ鉢ですが)が回ってくるのにおびえている場面である。ドンブリ鉢になみなみと注がれた酒(この場合“酒”とは日本酒のことですが)を一気に飲み干さねば、ペナルティとしてその場でもう一杯注がれるのである。この時期よく新聞に、急性アルコール中毒で死亡する新入社員のことが載っていたが、この状態はまったく他人事ではない。

 あ、とうとう藤山が九腕につかまった。ドンブリ鉢になみなみと酒が注がれ、廻りのロートル寮生がはやし立てる、「それ、一気、一気、いっき・・・・」その声はどんどん大きくなる。いつの間にか回り中に寮生があふれ、なんと寮母さんも声をそろえて叫んでいる!その声はもう声ではなく、“グオー”という騒音に変わっていた。その声がピークに達した時、山口は目を覚ましガバッと跳ね起きた。その瞬間、長い連結の国鉄コンテナ車が鉄橋をわたり終えたところであった。「はー、貨物列車の音か、それにしてもすごい音だなー。」山口は、今ようやく気づいた。今自分が住んでいるこの401号室は、隣りの鉄橋と同じ高さでそして一番近い部屋だったのである。“見晴らしのよい端の部屋”に当たったと喜んでいた山口は一挙にへこんだ。あー明日から毎日この騒音に苦しめられるのか・・・と。しかし寮母さんも人が悪い!
「山口さん、ええ部屋が当たってよろしおすな。見晴らしがええし、端やから静かでええわ。」
 京都なまりだけによけいに腹が立つ!
 松風寮は朝夕の賄いが付いている。寮母の畠田さんと賄いとして通いで来て居るおばちゃんが二人いる。この3人で、寮生30人の食事を作っているのだ。朝はごはんとみそ汁とテーブルのうえの皿に盛ってある漬物のみであったが、夜はそれなりに美味しいおかずが出る。貧乏な新規採用生にとっては次の給料日まで、お金がなくても何とか食いつなげるからだ。
 さて、寮生活もしばらくすると、少しずつ周りのことが見えて来る。朝の鉄橋のこともそうだが、寮の庭にはいろいろな物が置いてある。そのなかでも一番奇妙に思ったのは、庭の隅の木立の下に置いてある高さ1メートルほどのソフトクリームであった。電気コードが出ていたので、洋菓子屋やタコ焼き屋の店先に置いてあって、夕方になるとコンセントにコードを差し込むと中に入って入る電球が灯り、全体が光るやつだ。最初は、会社の催し物があるときに持って行ってソフトクリームでも売るのかと思っていたが、よく見るとこのソフトクリームの看板、随分前からここにあるようだ。たまたま出てきた寮母さんに聞いて見ると、これは7年前、石山駅前で酔っ払って帰ってきた近藤さんがコードを持って引きずってきたものだという。どうやら駅前の田中屋洋菓子店が被害に遭ったらしい。ま、ここの寮生ならやるだろうなとなんだか納得してしまう。周囲を見回すと他にも色々な物が植え込みの下にころがっている。飲酒運転撲滅の垂れ幕、パチンコ屋の新装開店祝いの花輪、信楽焼のたぬきの置物、まあこのへんまでは冗談で済ませられるか?しかし・・・さらに植え込みの奥には石の地蔵さん、お稲荷さんの祠、半年ほど前に盗難事件として新聞に載っていた地元代議士の胸像、ギョッ!地元やくざ鬼龍組の事務所の看板がある!見つかったらただでは済まないだろう。山口は背筋がぞっとした。これ以上植え込みの奥に入ると純金製の鰹の置物でも出てきそうな勢いだ。なんぼなんでも組事務所のカンバンなんて・・・持ってきた怖い物知らずはいったい誰だろう?少々青い顔をしながら山口が植え込みから出ようとすると、
「おい、み~た~な~山口ィ~。」
「うわっ!」
気持ち悪い声に思わず叫び声をあげてしまった。
するとそこには、ニタリと不気味な笑みを浮かべた寮創立以来の住人、西がいた。
「びっくりした!驚かせないでくださいよ、西さん。」
「山口っ、おまえ見てしまったなこの寮の秘密を。」
「え、秘密ってここにあるガラクタのことですか?」
「ふっふっふ・・・。素人が見ればガラクタにしか見えないだろう、しか~し、値打ちがわかる者が見ればすごい財宝なのだ。」
「何が”財宝”なんですか、そのへんに落ちている物を酔いにまかせて引っ張ってきただけじゃないですか。」
「何を言う!この石の地蔵さんはだな、由緒正しき膳所城の東北、鬼門を守る享保時代の名作だぞ。県指定の重要文化財を近藤先輩が夜陰にまぎれて担いできたものだ。先輩の苦労がわからんか?」
「ほ~ら、単に酔いにまかせてかっぱらってきたんじゃないの。もっとも、お地蔵さんが鬼門を守るなんて話し、聞いたことないけど。」
「う~ん、確かに持ち帰って来た時は酔っていたな。」「あの鬼龍組の看板なんてここにあると相当まずいんじゃないんですか?鬼龍組の組員がこれを見つけると小指一本じゃ済まないんじゃないですかね。」
「そ、そうなんだ。これは3年前、酔った寮生3~4人が度胸試しをやろうとしたんだ。」
「で、誰か鬼龍組のカンバンを取ってこれるか?と九腕が言ったんだけど、だれも怖じけついて行かなかった。」
「なら何でカンバンがここにあるんですか?」
「言い出しっぺの九腕がほかのみんなに、あんたも怖いんだろうと言われたので悔し紛れにその晩一人で取ってきたんだ。」
「それ以来、寮生はみんな組員に見つからないかとビクビクしているんだよ。」
「それにしては、随分ラフな状態で放置しているんですね。誰かが見ようと思えばすぐに見えるところに放置してるけど?」
「フッフッフ、」
西は意味深な笑い声を漏らすと言った。
「それには訳がある。このようにゴミだめのようにしておけば、やくざの金カンバンがよもやその中にあるとは思わんやろ。」
「それに、もし見つかっても誰かがゴミだめと間違えて捨てて行ったと言い訳できるやろ。」
と言い捨てて去って行く西の後ろ姿を見送りながら、山口は金カンバンをそっとお稲荷さんの祠の中に隠したのであった。 
 ああ、何て所に来てしまったのだろう。山口はかいま見た松風寮のとんでもない一面に先行きの不安を大きく感じたのであった。

(この物語はフィクションであり、登場する、人名、団体名は全て架空のものです。しかし、架空といっても、何だかこんな情景あったなー・・・とか、こいつ知り合いに似ているな・・・・なんて思うこともあるやも知れません。が、それは単なる妄想です。そんなことあるはずがありません。決してありませんっ!)

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コメントコメント


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田舎の勤務で、やはり鉄道で弱りました。
石灰石を運ぶ貨車が走り出す時に、連結器の隙間が鳴り響くのです。しかもディーゼル機関車はフルに吹かしてしていますから、慣れるまで大変でした。
しかし一度慣れると、夜中に起きることはありませんでした。
人間は環境次第のようです。

リバー | URL | 2012年06月16日(Sat)22:04 [EDIT]


四方山 さん
昭和40年代後半とだぶらせて拝読させてもらっていますが、
電車の騒音は、私の友人が東横線沿いに住んでいて、アパ-トの前、
目の前を電車が通りすぎていく。とんでもない景色でした。ただ
駅の近くでしたからスピ-ドもあげていないし、若さのせいで
住む環境ではないと感じませんでしたが、いま思い出すと、
’あいつよく住んでいたなあ、騒音がたまらないと、言ってたこともないし’
も一つ思い出話、先輩のアパ-トに遊びにいった時、
’たばこがきれたから、買いにいってくるわ’といったところ
先輩が押入れをあけて、’たばこなら、ここにあるぞ’・・・・・と。
なんと押入れのなかに、たばこの’自販機’が・・・・
夜中にどこかで盗んできたものらしい。
昔はこういう豪快なことをする人がいたけど、最近は小粒になったのかな?

のらくん | URL | 2012年06月17日(Sun)17:46 [EDIT]


リバーさん
 暗幕の正体は、鉄橋からの騒音の遮断用でした。しかし、防音効果は少なく、遮光効果バカ来がすぐれ、朝起きられないという副作用の方がおおきかったです。
 当時は部屋にクーラーを付けるお金もなく、夏場は暑いので掃き出しの窓を全開にしていると、カエルの声や電車の声で本当に寝苦しかった。懐かしくも辛い思いでです。

四方山果無 | URL | 2012年06月18日(Mon)00:51 [EDIT]


のらくんさん
 さすがにタバコの自動販売機はなかったけど、パチンコ台やスロットはありましたね。しかし、それ以上にまだまだ多くのエピソードがありますので請うご期待!
 しかし、ナイーブな人たちはすぐに寮を出ていってしまいましたが、私のように遠隔地からの寮生はおいそれと出ていくわけにもいかず、じっと我慢の数年間でした。

四方山果無 | URL | 2012年06月18日(Mon)01:03 [EDIT]