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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

映画「母べえ」

いい映画でした。

舞台は昭和15年、戦争中である。二人の姉妹初子と照美は優しい文学者の父と、代用教員の母とに守られ、平穏に暮らしていた。彼女達の暮らしでは、お互いに親しみを込めて“べえ”を名前の後ろにつけて呼び合っていた。

 そんな平穏なある日、突然「特高」と言われる、思想犯を取り締まる警察が土足で家の中に上がりこみ、父を拘束していった。それ以降の父べえと、母べえそして二人の姉妹のやりとりする手紙が主な主題となる。父べえが検挙された後、父べえの教え子山崎(山ちゃん)が母べえの生活を助けてくれ、また、父べえの妹で画家である久子も応援してくれる。

 原作は野上照代(実は、映画の中に出てくる次女である。)が1984年の読売女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞に「父へのレクイエム」という題名で応募し、優秀賞を受賞した作品を山田洋二監督が映画化したもの。

 キャストも豪華で、主人公母べえには吉永小百合、山ちゃんには浅野忠信、久子に壇れい、大人になった初子に賠償千恵子、照美は戸田恵子、奈良の叔父、藤岡仙吉に笑福亭鶴瓶。

 戦時中を背景とした映画なので、当然かつてそうであったやりきれない風景が織り込まれている。小学校では奉安殿に向かって“君”の世の中が栄えるように・・・という歌が強要され、町中では愛国婦人会のおばはんが、“贅沢撲滅運動”として服装が華美だとか口紅を付けるなとか注意している。そして、反感を持って抗議すると“非国民”という叫びと共に特高警察が拘束しに来るのである。

 奈良の叔父(鶴瓶)はハチャメチャな人間で、思春期の初子に対しても全くデリカシーが無い。愛国婦人会のおばはん等にたいしても「自分が一生懸命稼いだかねで買ったもんや。なんで供出せなならんねん。」と遠慮はしない。母べえは、このように言いたいことを言う叔父を見ていつも心癒されているのだ。結局はこの叔父も、吉野の山奥で亡くなってしまうのだが・・・。

 やがて、父べえは獄中で病気になり死んで行く。山ちゃんは召集され満州へ行く。そこから南方に転進するとき貨物船が魚雷攻撃され山ちゃんもまた死んでしまう。久子は郷里の広島で原子爆弾を受け、2ヶ月苦しんだ末亡くなってしまう。

 物語の最後、母べえが年老いて亡くなる間際、次女照美に伝えた言葉、これが重い。さらにその最後に挿入される山ちゃんの声による母べえにささげるレクイエム。思わず涙がこぼれる。

 かつて警察官であった母べえの父が後妻を連れて、警察指定の旅館に泊まり、スキヤキを食べるシーン。「ここには肉だって玉子だって何でもある。」その父が戦場では兵隊はろくな物を食べていない。ましてや思想犯に食わせる飯など日本中どこをさがしても無い!と母べえに言い夫との離縁を迫る。私はその時思った。多くの国民が耐乏生活を送っている中、警察官という特権的な立場を利用して豪華な食材が確保される旅館でスキヤキを前にして、一体どの口がそんな事を言ってるんだぁ?!と言いつつ唇をひねり上げてやりたかった。

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