FC2ブログ
 

2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

書評「遠い日の戦争」(吉村 昭)

 吉村昭の戦犯を主題とした小説である。敗戦間近、連日の空襲に襲われる日本各地の都市。中国や南方の島々の基地より夥しい大型爆撃機が襲来する、主人公の琢也はこの爆撃機の接近を「電波監視装置」により監視し空襲警報を出させるという任務に就いていた。アメリカ軍の行う、一般住民を区別する事なく攻撃する「無差別爆撃」に琢也の心は怒り狂っていた。そんななか迎撃にあって墜落した爆撃機の乗組員が捕まえられた。俘虜は住民になぶり殺しにされたり、形ばかりの裁判を受けさされ、処刑されて行った。なかには大学病院に送られ人体実験の材料として殺された者もいた。琢也は、広島、長崎に落とされた新型爆弾で夥しい市民が殺されたことをきっかけに、俘虜の処刑を志願して実行する。

 戦後、「極東軍事裁判」が始まると昔の友人より身をかくすようにアドバイスされ、友人の家を転々とする。しかしどこも生活が苦しくて琢也は鬱陶しがられる。最後に身を寄せたのは姫路にあるマッチ箱工場であった。そこで約2年人目を忍んで生きてきた。日々警戒し、緊張しながらの生活はどんなにか疲れたことであろうか。
 警察に見付かった直接の原因は自分が家族に宛てた年賀状であった。なんとか自分の無事を家族に伝えたいがために投函したものが仇となってしまったわけである。
 その後の琢也がどうなったのかは書かないが、戦勝国が戦敗国を裁いた「極東軍事裁判」これには多くの物議がある。基本的には裁くための法律事態が無い。終戦直後には憎しみこもる日本の戦犯(というか日本人民全体)に対しての風当たりは強かった。アメリカ人俘虜にビンタをしたと言うことが発覚しただけで絞首刑であった。その後除々に世相や、アメリカ人の日本人民に対する感情がかわっていき、朝鮮動乱が勃発するやアメリカ人は日本に軍隊を復活させ、アメリカの手先として戦場に送り込もうと考えた。そのため、軍事裁判はゆるいものになっていったのだ。
 また、敗戦前から敗戦後の時代、日本人の態度も大きく変わった。戦争がはじまった時の、自分自身の「精神」の位置に留まることは、かなり困難な状況もあったであろう。中には、変わり身早く、今までの自分自身の「精神」のなにもかもをかなぐり捨てて強い者すなわちアメリカ人に擦り寄って行った日本人も多くいた。若い女や、老人、子供など多くがである。琢也が守ろうとしたものは一体何なんだったのか?
 終戦を20歳前後で向かえた琢也の世代は一番軍国主義の教育を受けているがため、なかなか方向転換が出来なかった、またその裏返しで、容易に転換してしまう人達への憎悪も大きいものがあったことが伺える。
 日本人は、いかに優柔不断な民族か、というのもこの小説を通して吉村昭が言いたかった事かもしれない。 

スポンサーサイト



PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

ワタシが信奉する吉村昭先生の著書がやっと登場しましたね。
 この作品は近頃某アイドル歌手(の割におやぢ)の主演で公開された映画「私は貝になりたい」と根源を同じくする作品ですがあくまで極めて客観的にかつ冷静に書きつつ極めて読み応えの有る特徴的な文書であり歴史文学の第一人者である吉村先生の面目躍如たるものが有ります。
 更にお勧めするとすれば上坂冬子著「生体解剖 九州大学医学部事件」に詳しいですが吉村先生と違い少々思い込みによる錯誤が気になります。
 ついでにお勧めするのは同じく吉村先生著「深海の使者」で戦時中に日本からインド洋・喜望峰を迂し大西洋に出て遥か彼方のドイツ領を往復した日本海軍潜水艦の様子を軸とした大作なのですが、この中で当時世界最高の精度を誇ったテレフォンケン社製のレーダー「ウルツブルグ」を日本に伝える為その潜水艦で日本にやって来たドイツ人技術者ハインリッヒフォーデルスが登場します。
 本作品中で彼の事は詳しい事が書かれていないのですが・・・CQ出版社から刊行された「幻のレーダーウルツブルグ」の中にその詳しい様子が書かれています。
 元天才無線少年の四方山さんなら読まずにはいられない作品かと思うのですが残念ながら古本屋さん以外では入手不可能。
 散々探し荻窪の古本屋で探し出しました。
もしお読みになるので有れば当月8日関西地方をウロウロしておりますんでお貸し致します。
ながぁぁぁぁぁ

うんちく | URL | 2009年02月04日(Wed)21:46 [EDIT]


うんちくさん

 コメントありがとうございます。
くだんの関連の小説はほかにも遠藤周作さんとかもありますね。吉村 昭さんの小説は以前紹介していただいた「ポーツマスの旗」も読ませていただきました。それより前には「伊号潜水艦」その他戦記物を結構図書館で借りてきて読んで居ます。最近は吉村昭さんの奥さんの津村節子さんの著作も図書館で借りてきています。夫婦とはいえずいぶん作風は異なりますが私にとってはどちらも興味深い作品です。
 うんちくさんよりコメントで紹介していただいた作品はこれから楽しみながら読ませていただきます。いつもありがとうございます。
 8日は残念ながら、泉佐野へ117クーペのゴム製品再生産のための金型工場の下見に行きますので不在となります。

四方山果無 | URL | 2009年02月05日(Thu)01:12 [EDIT]