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2台のクーペと”四方山果無(よもやまはてなし)”World

書評「紗高樓奇譚」(浅田次郎)

 五話の小編からなる小説である。世の高みに登りつめた者たちが無聊をなぐさめるため「紗高楼」というサロンに集まり、人には語れない話をそこで告白してゆくという仕立てである。告白話しの一つ一つが各々独立しており、怪談話のような奇譚を集めたものとなっている。五話ともに秀逸な話であり興味深い。
 

 最初の話はこの「紗高樓奇譚」という小説全体に出てくる元刀剣売買を生業としていた主人公、その友人の話という設定である。その友人は若くして著名な刀剣鑑定師の宗家を襲名した。実は日本刀の世界は過去から既に何度も鑑定されているものが大半で、「掘り出し物」と言われるものが出現することは現在ではほとんどない。しかし世にあるはずの無い名刀が次々に出現し、その来歴を探ることにより自分の属する刀剣鑑定の世界の信頼が大きく揺らいでしまうという話である。一族を破門された剛腕の刀鍛治が本家に挑戦すべく素晴らしい贋作を打ち、本家はそれを見破れずに古来からの逸品として鑑定してしまう・・・という話なのだ。最後には本家の若い当主が、この世で最高の名品を打つように依頼し、初めてその素晴らしい出来の幻の名刀に、破門された剛腕の刀鍛冶が銘を入れるという話なのである。この物語では作者浅田次郎の豊富な知識が余すところなく盛り込まれている。なかなか素晴らしい作品であった。
 このほかに時代劇映画のセットに毎度現れる「勤王の志士」の亡霊の話。100年かけて作られた庭園の庭師の話。女性の恐ろしい執着心を語った話。そして、最後にやくざの組長の周囲の誤解による成り上がりの物語りがある。「やくざ」の世界は浅田次郎氏の得意とする分野であろう。どれもこれもおもしろく感心させられるお話ばかりである。「紗高樓」という形式を取らなくても短編集でもよい作品であった。ご一読をお勧めします。

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