連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第5話 釣書
暑さもいくぶん和らぎ、松風寮の庭の木立で鳴いているセミの声も「オーシ・ツクツク」に替わった。部屋にいると暑いので、最近休みの日はいつも食堂に詰めてテレビを見ている。食堂にはクーラーもあるし、電気代は寮生で折半だから自分の懐は大きく痛まない。一人でクーラーを入れ、テレビを見ていて寮生の皆さんに負担をかけ、申し訳ない事だと心が痛むだけである・・・なんてしおらしい気持ちは当然山口には”無い”。
連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第4話 人生捨てたろ会
8月の初め、真っ青な空とくっきりとした白い雲、緑の多い滋賀県大津市郊外の山口の会社は蝉時雨に包まれている。まさに夏真っ盛りだ。(ま、言い換えればクソ暑くるしく、やかましいセミどもなのだが)山口の会社には夏休みが3日ある。特定の日が休みというわけではないので、土日を繋げれば5連休が取れるのだ。寮生の多くはお盆の期間に休みを取って帰省するのだが、優雅?な独身貴族?(独身棄民)のこと、海外旅行や国内旅行に出掛ける者も多い。
連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第3話 なんで風呂場が閉まっているんや
夏が暑いのは一般的な話だ。「暑い、暑い!」山口が職場でも寮でも口癖のように言っていると年配の坂木が、「うるさい!暑い暑い言うな!聞いとったらよけいに暑なる!」と文句を言う。暑くてイライラしている山口は、「暑いから暑い言うてんねん。なんか間違ごうたこと言うてまっか?」と、だいぶ流暢になってきた関西弁で言い返した。
連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第2話 ホルモンや”腹一杯”
松風寮の賄いは平日のみしかない。土日には寮生は外食か、厨房で勝手に自炊をしなければならない。実家が近隣の者は休日は家にかえって食事ということもできるが、山口の実家は兵庫県の西でありここ滋賀県大津市からは結構遠かった。
寮生の古株はたいがい土曜日の夜は石山の街中にあるホルモン屋へ行くことを常としていた。目一杯飲んで食っても一人二千円ほどで済むため、30から50を過ぎたロートル寮生にとっては”屁”でもなかった。
連載小説「松風寮の四季」第二章夏は夜 第1話 風流舟だまり
就職すると月日の流れは速く感じる。いろんな現場に接する毎に新しい体験が出来る。用地境界の確認の立ち会い、測量、下請け業者の検尺、仮設足場の組立、玉掛けの手伝い(クレーンで鉄筋などをつり上げる時のワイヤーロープ掛け)、コンクリート打設時のバイブレーターなど・・・・。もっとも楽しい体験ばかりでないことも確かだし、二度としたくない体験も中にはある。たとえば、林道工事の丁張りの手伝い、木杭を山のように背負子にくくりつけ、道無き道を延々と登るのである。また、山中での測量助手。ポールを持って立っていると、すぐ横にマムシが・・・!驚いて飛び退くと、下の方から先輩が「バッキャロー!!動くな!」「(そんなこと言ったって、マムシがいるんだもん。)